『ねにもつタイプ』 魏志倭人伝
2009年 03月 05日 |
岸本佐知子氏の訳した『変愛小説集』と『ほとんど記憶のない女』が面白かったので、訳者ご本人のエッセイ集も読んでみました。

妄想が爆走してしまうのは自分だけかと悩んでいましたが、もっとすごい人がいたのか、妄想者,人之常情也と感激しました。


三国志っぽいところをムリに探して引用してみます。
上司からの書類に「よしなに」というメモがついている。でもどうやって処理すればいいのか?

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あなたはなすすべもなくその言葉を見つめる。よしなに。よしなに。よしなによしなによなしによしにな。見ているうちに、だんだんひらがなの一つひとつがぐにゃぐにゃほどけて、ヘビのようにのたくりはじめる。あなたは慌ててひらがなを漢字に変換する。与市名二。与志那仁。与那国。与論。対馬。漢倭那国王。魏志倭人伝。頭の中で、兵馬俑がゆらりと身動きする。中国の大地に埋まっていた何千何万という石の軍隊が、こちらに向かって進軍を始める。狙っているのは皇帝の暗殺を指示する密書。まさに今あなたが手にしている書類だ。

「西太后の玉」
『ねにもつタイプ』 岸本佐知子 筑摩書房

さりげな~く二人称になってるあたり(いま写しててやっと気づいたけど)実はすごい技巧の持ち主では?翻訳家に必要なのは外国語力より日本語力というのがよく分かる。


感心するのは、英語の翻訳家なのに教養が幅広いところ。
頭の中で鳴り響くプリティーウーマンのイントロ(ズン・ズン・ズン・ズン・ズン・ズン・ドコ)を退治する話



なんとか調伏しようと私は読経を試みる。敵は強力な悪霊ゆえ、よほど霊験あらたかな経文でなければならぬ。
「隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くズンして名をズン虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性ズンドコ狷介、自ら恃むところ頗る厚くズンズンズンズンズンズン」だめだ。

「ホッホグルグル問題」


性ズンドコ狷介・・・『山月記』も台無し。でもこんなのがサラっと出てくるところに感服しました。


描写がとても巧みで、ヘタな小説家よりずっといい文章。
「ナマケモノ」と「赤ん坊」が東京を襲う迫真の場面とか、妄想エッセイ集なのか珠玉の幻想短編集なのか分からなくなります。

それにしても、訳語ひとつに何種類も辞書を引いているところなどプロの翻訳家で、やはりただの妄想家ではない。
私もこのままではただの妄想ばかりしてる素人なので、もっと芸になるほど妄想と文章を磨かなければと決意しました(それが妄想だっつーの)
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