《一代宗師》 出遅れ&長文
2013年 07月 31日 |
ネットのレビューの悪評がすさまじく、いったいどんなにダメ映画なんだろうとワクワクしながら見ました。

ねたばれしてるので(というか長文のうえバラバラすぎて自分でもどうかと思うので)折りたたみます







私はけっこう面白かったです。

何度か見たのですが、行くたびに観客が減って、最後のころは「自由席ですからお好きにどうぞ」と言われてほぼ貸切。冷房が涼しくて快適だった・・・

冒頭の喧嘩シーンではボーっとくつろいでたのですが、青楼の場面で「『ルージュ』みたい~」と思ったら《客途秋恨》が流れてきて、ちらっと映った歌手が張國榮そっくり。
あとでwikiを見たら「金樓唱粵曲的伶人:張智霖」とあって、そりゃ似てるはずだと納得したのですが、あの粵曲の場面は何度見ても全身が総毛立ちます。ソフトフォーカスかかってるところがまた怖い。
あれはトリビュートだったのか?(それともホラー?)

そこで後ろから映画の中にどんっと突き落とされたようで、自分も青楼に入り込んでカーテンの陰から覗き見してるような、一体感というか浮遊感を感じながら見てました。変な体験だった。


金樓は建物もインテリアもとても素敵なのですが、そこにずらりと居並ぶ美女がまた良いですね、みんな流し目で無理めのポーズとってたりして。
梁朝偉と章子怡がテーブルにつくシーンは「最後の晩餐カンフー版」って趣で、たったあれだけのために豪華な背景を無意味に浪費するところが贅沢で楽しい。


葉問の妻がベッドの足もとで蚊取り線香をつける場面で《傾城之恋》を思い出し、白玫瑰理髪廳と聞けば《紅玫瑰白玫瑰》や《黑玫瑰對黑玫瑰》を思い出し・・・どの場面を見ても他の香港映画を思い出しながら見てました。目は画面を見てるのに心の中は走馬灯奔走状態。

王家衛の映画を見るって、スクリーンで上映されてる映画を鑑賞すると同時に自分の記憶を覗き込むようなところがあると思うんですよ。
《一代宗師》が面白くなかった観客は、あの映画で思い出すことがあんまりなくてつまんなかったんでしょうね。(←それが普通の日本人の反応)
私は見てるうちに過去の香港映画がどんどん湧き出てきて、頭の中がすごく忙しかった。
自分でも忘れてた映画をいろいろ思い出せてお得な気がしました。 


■食べ物とか音楽とか

映画の中では何度も「国に南北はあるか」「カンフーに南北はあるか」と問いかけられてますが、だったら映画の中で南北が統合されてるかといえば、むしろ南北の違いが強調されてた気がします。

北方人は北京語を話し、南方人は広東語を喋る。北方人は京劇を聞き、南方人は粤曲を聞く。(日本語字幕ではどれも「京劇」と訳されてた気がしますが、葉問が聞いてたのは粤曲)
北方人は年越しに餃子を食べ、香港に住んでいても満清料理を食べる。料理名がさっぱり聞きとれませんでしたが、たぶん小麦と羊とかなんでしょうね。南方人のランチは叉焼飯で、ブタ肉と米の飯。
北方人が住んでいるのは雪に閉ざされた四合院で、高い空と雪原がどこまでも広がっているが、南方は2階建ての建物で、看板に埋め尽くされて空なんて見えない。


■称呼とか

葉問は香港で宮二に会ったとき「宮先生」って呼んでたみたいです。他人行儀だ。
医生だったら女性でも先生って呼ぶのかなー。

葉問が香港で武術コーチとして雇われることになったとき、「早く先生にお茶をだせ」ってセリフがありました。
「どうしてお茶を?」「拝師だ!」って会話だったので、たんに喉が渇いたから飲むんじゃなくて、収徒弟の儀式をするって言ってたんですね


■脇役の人とか

老姜を演じた尚鉄龍はドラマ「手機」でものすごい河南なまりだったので、普通に喋れるんだーと驚いた。
馬三は演技もBGMも大袈裟すぎないですか?
宮宝森を演じている王慶祥さんをまったく知らなかったので「江湖にはまだまだこんな達人が・・・」と思わされた。
徐錦江いったいどこに出てるのー?と思ったら、佛山武術界の記念写真コーナーで葉問の隣に立ってた。これだけ?


■宮二

青楼の場面で宮二は妓女の集団を背景に葉問と対峙してました。
一見、女たちが宮二を応援してるように見えますが、実際には宮二は江湖の女性とはいえ、嫁入り前の堅気のお嬢さんで、化粧っ気もなく、背後に並んだプロのお姉さんたちとはまったく違う立場。妓女たちのあいだで宮二は浮いている。

北方へ帰れば父親の弟子を引き連れてはいるものの、女の身では家業を継ぐことも、弟子を取って技を伝えることも許されていない。男の集団に宮二の居場所はない。

香港で医学で身をたてようとするものの、香港では東北人は永遠によそ者あつかい、ここにも彼女の場所はない。

宮二が唯一幸せだったのは、門を閉ざした屋敷の梅林でパパにカンフーを教わった少女時代だけ。
こういう両性具有というか中性的なキャラクターは、昔のウォン・ガーワイならブリジット・リンが演じたんだろうなあと思って見てると、むしょうに《東邪西毒》が見たくなってきた。
ちょっと王家衛まつりに行って発泄してきます。


今日の記事はここまでです。多謝光顧!

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