「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか
2012年 01月 21日 |
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「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか
梶谷 懐(人文書院)


すごく面白い本でした。
著者は経済が専門なので、政治面だけでなく経済面から中国を見る方法をいろいろ教えてくれます。




中国産野菜の品質と価格について考えさせられる部分。


問題は、(略)消費者に「安さ」しか求められない、という日本における中国産食品の位置づけが、当初とまったく変わらなかった点にある。
(略)
もちろん、日本に輸出される食糧は〔中国〕国内で販売されるものとは比較にならない厳しい検査を受けており、検査に引っかかる輸入食品全体の平均よりも明らかに低いことが厚生省による「輸入食品監視統計」の数字からも裏付けられる。しかし、現在では中国産食品の「安さ」こそがすっかり「危険さ」のスティグマとなってしまったことは否定できない。

第1章 自己実現的な制度と私たちの生活



「輸入食品監視統計」なんて初めて見ました。※
確かに2008年の資料では平均の違反率0.59%に対して中国産の違反率は0.29。エクアドルの違反率なんて20.53%なので、この統計によれば中国の食品のほうがエクアドルの100倍も安全。

しかし、「安いから中国産野菜を買」っていた消費者が、「中国産野菜が安いのは品質が悪いせいでは?」と買わなくなり、「中国産野菜は安いから売れない」ので悪質な業者が「中国産野菜に国産の偽装ラベルをつけて高く売る」(または「質の悪い国産品に中国産のラベルをつけて安く売る」)という偽装事件が起こるようになったというのが目からウロコでした。

消費者が情緒に流されて合理的でない行動をとると、結局損をするのは消費者ってことですね。


「統治の倫理」と「市場の倫理」の矛盾、対立についての章がとくに興味深く、政治と経済の両輪をバランスよく走らせる難しさがよく分かります。


また、このように考えるならば、尖閣諸島における事件以降混迷を極める日中関係に関して、日本人の立場からどのように考えていけばよいのか、おのずからその方向性が見えてくるのではないだろうか。この点に関して問題なのは、事件後の日本のマスコミやインターネットの論調を見る限り、中国に対して「取引を避けよ」「勇敢であれ」「復讐せよ」「排他的であれ」「剛毅たれ」「名誉を尊べ」といった、まるで「統治の倫理」から抜き出してきたような、いわば「武士と軍人の言葉」ばかりが飛び交っているように思えることである。
しかし、やはりそれでは問題の根本的な解決はもたらされないだろう。現代の日本および中国に生きる人のほとんどは政治家でも軍人でもなく、市場での自発的な取引を通じて生計を立てている「商人」に他ならないからである。その意味で、「市場の倫理」への配慮を欠いた強攻策によって一般の人々が得るものはほとんどない、といってよい。

第7章 分裂する「民主」と「ビジネス」



参考文献にあげられている本もどれも面白そう。


※H21年度についてはネットでも閲覧できます。
平成21年度輸入食品監視統計(平成 22年8月厚生労働省医薬食品局食品安全部)
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/dl/07toukei.pdf

しかしものすごく見にくい・・・
特定の国の輸入食品の安全性についての統計は載ってなくて、最初の概要に


5 . 生産・製造国別届出・検査・違反状況(表5,図4)
国(地域を含む)別の届出件数をみると、中国の539,069件(29.6%:総届出件数に対する割合)が最も多く、次いでアメリカの198,297件 (10.9%)、フランス16 6, 894件(9.2% )、タイ 139,896 件(7.7% )、韓国 122,671件(6.7%)、イタリア78, 252件(43% )の順であった。
また、違反状況をみると、中国の387 件(24.8%:総違反件数に対する割合)が 最も多く、次いでアメリカの187件 (12.0%) 、ガーナ182件(11.7 %)、タイ118 件(7.6% )、ベトナム 83 件(5.3% )の順であった。


一見やっぱり中国産の食品は危険!?と思ってしまいますが、よく読むと「総違反件数に対する割合」が一番高い(件数が多い)のは、届出件数が一番多いからで、そりゃ当然なんじゃ・・・???という気もしますが・・・
なんか消費者をわざと混乱させるような書き方だな・・・

中国は届出件数29.6%で、総違反件数に対する割合が24.8%
アメリカは届出件数10.9%で、総違反件数に対する割合が12.0%

こうやって見ればアメリカの食品のほうが危険ってことになるのでは?
ガーナなんて届出件数はベスト5にも入ってないのに、総違反件数に対する割合は第三位ってかなり危険なのでは・・・

消費者が一番知りたい「どの国の食品が安全でないのか」は自分で数字を拾って再計算してみるしかないようです。


今日の記事はここまでです。多謝光顧!

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